ユニクロも後継者には悩んでいる
株式会社ファーストリテイリング柳井会長兼社長は2009年10月26日の日経フォーラム(世界経営者会議)講演で同社が抱える最大の課題として「後継者育成」を挙げた。かつて、玉塚氏(現・株式会社リヴァンプ代表取締役)に社長の座を譲ったものの、再度社長に返り咲かねばならなくなった苦い経験からもその苦悩は読み取れる。しかしながら、柳井会長兼社長よりも悩んでいる人々が日本の中小企業の経営者達である。
企業経営とは、「永続的発展を目指す企業」を「生命体としての存続し続けることに限界を持った人間」がかじ取りをして運営していくものである。経営者はどんなにバイタリティがあり有能であっても、いずれ交代する必要性に迫られる。経営者は後継者に経営のバトンを円滑に譲り、この過程を円滑に繰り返すことで、企業のゴーイングコンサーンを達成していくことになる。しかし、これはあくまで所有と経営の分離が明確になされている大企業のみが達成しうる話なのである。
中小企業の事業承継が進まない訳
つまり、大企業は所有と経営が分離している為に所有(株主)、経営(経営者)はそれぞれ別々に手続きして引き継ぐことができる。株主が変われば株主変更の手続きをすれば良く、経営者が変われば代表者変更手続きをすれば良い、冒頭のファーストリテイリングの話は後者の話である。しかし、中小企業においては所有と経営が分離していないオーナー企業がほとんどである。したがって、経営者が変わると同時に、所有者(株主)の名義も変わる、その結果、相続の手続きも同時に行う必要が出来てくる。これにより、個人のデリケートな部分にまで話が及んできて非常に複雑な問題となる。これが、中小企業の事業承継が円滑に進まない理由の経営学的な説明である。
そして、さらに中小企業の事業承継の円滑化を阻害している要因は法律、税制的に関連法制度が中小企業に使い勝手が悪いということである。内容についても非常に複雑且つ専門性が高いため容易に相談できる相手がいない。なかなか、この分野までをきちんと相談に乗り、最適なソリューションを提供できる税理士や専門家は非常に少ない。そして結果的にいざ経営者交代という時にエイヤーと事務的な手続きのみで事業承継を相続対策の一環の様に行ってしまう。
後継者を育成することに真剣に向き合うことが大切
つまり、何を言いたいかというと日本の中小企業における事業承継対策とは、大企業で言う株主の変更手続き(自社株をどうするか、誰に株を少ない相続税で引き継ぐか等)対策が議論の中心であり、本来されるべきはずの後継経営者の育成にはほとんど無頓着な経営者が多いということである。冒頭の話に戻るが後継者を育てる為に、柳井社長兼会長は「世界の優れた経営コンサルタントや大学と提携しながら経営者を育成していきたい」と述べている。つまり、後継者を育てるにはそれだけ努力をしなければ育成は出来ないのである。
中小企業の取りうるべき後継者育成の事例
ここで実際に訪問した企業の後継者育成の事例をご紹介したい。地方の中堅企業(菓子製造小売業・従業員約640人・パートアルバイト含む)では31歳の後継者に対して経営企画部長の役職を与えるとともに、実際に将来の幹部候補生を週に一度集め、新商品の開発について全権限を与えてプロジェクトチームを組織している。これは正に、将来を見据えた疑似役員会と言える。つまり、若いうちから後継者およびその右腕たる人材に権限を持たせ会社の意思決定について範囲を定めて移譲している。後継者は今から将来を想定して、意思決定を訓練出来る。
さらに従業員との間には信頼関係が生じる。後継者育成、人材育成の観点から見ても非常に効果的な取り組みだと思われる。中小企業にはファーストリテイリングの様に世界的なコンサルタントを呼んで後継者教育を行うお金もなければ時間もない。しかし、考え方や努力次第でその企業に最適な後継者育成の方法が必ずある。
後継者育成は待ったなし
中小企業経営者の平均年齢は年々上昇をし続けている。帝国データバンクの調査によると60歳に迫りつつある。60歳になると一気に成人男性の生存率は低下し始める。先ほど述べた「生命体としての限界」が迫りつつある。ある中小企業に対してのアンケート調査によると中小企業で規模が小さければ小さいほど、業績が良好でも廃業する企業が多いとの結果が出ている。これは中小企業に蓄積された技術力や人材などの貴重な資源が将来にわたって毀損するリスクを含んでいることを表している。
そのためにも中小企業の後継者を育成し事業を円滑に引き継ぐことは、日本の社会にとって急務な課題だといても過言ではない。ただ、その具体的手法や解決スキームを中小企業に提供できる支援機関、支援会社は少ない。そして中小企業経営者は漠然とした不安を先送りすることで日々の経営活動に奔走している。この待ったなしの課題をどう解決するかについて、ここでは具体的解決策を述べる。さらに、激変する経営環境の中、今後求められる経営者に必要な資質、能力について検討していく。
水沼 啓幸
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