IKEAの店舗数が増えてきました。IKEAは、スウェーデン発祥の家具の製造小売業です。全世界に展開しています。北欧デザインのおしゃれな家具が安く購入できることで、世界的に人気を博しています。
IKEAの企業コンセプトは、「ホームファニシング」です。日本語に翻訳することは難しい言葉ですが、家具を生活の一部と捉えましょうという意味合いだと考えられます。欧米のように、家具を生活の一部と捉える文化がない日本では、このコンセプトはそぐいません。しかし、世界的な企業であるIKEA共通のコンセプトであり、今後はこのホームファニシングが日本でもどれだけ浸透するかが、本当の意味での日本進出成功のバロメーターになると思われます。
現実に日本で、海外の大手小売業が成功するのは難しいといわれています。世界的にメジャーなグローバルリテーラーであるウォルマートやカルフールも日本に参入を果たしましたが、その後の拡大には至っていません。IKEAも世界的な収益規模からみると日本はほんお数パーセントであると考えられます。本当の意味で成功といえるかはまだ分かりませんが、実際に店舗を拡大していることは事実です。
グローバルリテーラーの日本進出が難しいといわれる中で、IKEAが店舗を増やしている要因は何か?店舗視察をした結果から、探ってみたいと思います。
1.おしゃれなライフスタイルのパターンの提案
IKEAでは、ブースごとにIKEAのコーディネートを空間演出しています。たとえば、ダイニングルームをモデルルームのようにIKEAの家具で演出し、顧客の創造力を掻き立てます。広いフロアというメリットを活かして、同じダイニングルームの演出を何パターンも見せることで、様々な趣向の顧客に対応しています。
2.ワンウェイ・コントロールによるイベント性の付与
IKEAでは、徹底したワンウェイコントロールが特徴です。顧客は、リビングルーム⇒ダイニングルーム⇒寝室⇒キッチンというように、通路を順路に沿って歩くことでくまなくIKEAの商品と演出を見て回ることになります。ワンウェイコントロール自体は、スーパーマーケットでもおなじみの手法です。スーパーマーケットでは、顧客のショートタイムショッピング需要の高まりによりニーズに合わなくなってきていますが、家具というじっくり選んで買うという商品特性上、この手法は有効です。私の周りのあるIKEA顧客は、「IKEAは、テーマパークに行くのと同じような気持ちで行ける」と述べていました。1で述べた、ライフスタイルシーンの演出とワンウェイコントロールによる様々な場面の可視化が、テーマパークのようなイベント性を付与しているのではないでしょうか。
3.顧客の仕事によるコストダウンと家具に対する敷居の引き下げ
IKEAほど、顧客に仕事をさせる家具の小売業はないと思います。家具のセルフサービス販売を実施している小売業は数多くありますが、売場での商品の寸法の計測(計測用のメジャーを配置している)、レジへのキャリー、持ち帰り、組み立てと、家具を購入するにあたり、店員と接するのはレジでの金銭授受だけという状況です。これによって、当然、人件費削減が可能になり、その分が低価格として顧客に還元されています。これは、コストダウンとともに、店員にレジまでの持ち運びを頼まなければならない、ちょっと話を聞くだけだから声をかけづらいという、家具売場に来店することや購入することに対する顧客のストレスを取り除いているといえます。家具に対する敷居を引き下げることで、気軽るに店舗に来店してもらえる環境をつくっているといえます。
4.低価格とデザイン性の二律背反を上手に達成している
IKEAの特徴といえば、冒頭にも書きましたがやはり「北欧デザイン」と「低価格」の共存といえます。これまでの日本メーカーの家具では、「良いデザイン=高価格」「低価格=陳腐なデザイン」という固定観念があったいえます。IKEAは、その常識を変えました。3で述べたように人件費をかけていないことが、大きな要因です。他にも、注目すべきは、ほとんどの家具が組み立て式であることです。組み立て式であるため、全てが本来のサイズよりも小さなダンボールに入って売られています。小さなダンボールに入っているということは、輸送時に場所をとらずに運べるため、輸送費を大幅に削減できるというメリットがあると考えられます。これは、ISMの手法からは少し外れてしまいますが、流通業として捉えたときには、非常に大きなコストダウンの効果を発揮すると考えられます。おそらく、デザイナーは組み立て式にして小さくすることを前提にデザインを考えているはずです。デザイナーにもコスト意識が根付いていることが、IKEAの大きな強みではないでしょうか。
IKEAは低価格を、ライフスタイル提案、イベント性の付与、デザイナーの工夫で、上手に付加価値に転嫁しており、それこそが日本市場に上手に参入できた要因ではないでしょうか。日本の消費者は、世界一小売業に対してうるさい消費者であると言われています。そのため、グローバルリテーラーといえども、商売の仕方を変え、日本の消費者ニーズに臨機応変に応えていかなければならないというの一般的な見方です。
しかし、IKEAは、付加価値を付与することで、逆に日本の消費者が、IKEAに対して寄り添うようなモデルを成立させました。この背景には、コストダウンをしながら、付加価値を高めているというIKEAの二律背反への挑戦があります。
このように二律背反することを企業の工夫によって達成するイノベーションを起こさなければ、日本市場への進出はなかなか成功しません。
流通コンサルタント 岩瀬敦智(IWASE ATSUTOMO)
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