食品スーパー業界は、ご存じのように、薄利多売で利益率が低いのが常識になっている。そうした中で、経常利益率8%の驚異的な利益率をたたき出しているスーパーがある。世田谷本社に山の手や東急、小田急沿線に約30店舗を展開するスーパーオオゼキだ。イオン、イトーヨーカ堂といった大手のバイヤーが、こぞって見に行くことでも知られている。
噂には聞いていたし、友人が研究していたので、関心はあったが見に行く機会はなかった。“百聞は一見に如かず”東京の仕事場から、横浜の自宅に帰り道、途中下車して、大森店に行ってみた。
店に入ってみると、たくさんのお客様で驚かされたが、ちょうど、業界で初めて始めたキャッシュバックの日に当たるようだ。まず、目にとまったのが、ビックリするくらい大きなPOPは、迫力がある。
インタビュー取材をしたわけではないので、予測の域を越えないが、なぜ、こんな利益率を実現しているかを考えてみたい。
試しに、50円を払ってキャッシュバック会員になったが、その際、渡された案内によると、キャッシュバックカード会員は、80万人を突破している。キャッシュバック売上比率(%)88.3%であり、その履歴から精度の高い販売予測に基づく仕入れができていると推察される。また、この現金キャッシュバックの仕組みで、来店頻度を高めているのだろう。常連客中心の商売であれば、販売管理費率が低く抑える工夫ができる。
滞在したのは、わずか1時間30分のだったが、商品の補充や入れ替えを行っている。キャッシュバック会員の購買履歴やPOSデータを徹底的に研究し、時間帯や売場毎に何が売れているかの分析を行い、売場担当の判断で小まめに品揃えを変え、売れ残りを少なくしていると予想される。タイムマーチャンダイジングをやってるのかもしれない。そうであれば、パート社員の比率が高い業界にあって、正社員で7割運営している理由のつじつまが合う。
品ぞろえは、生鮮食品が多い。加工食品は、セントラルバイイングが有利で大手には勝てない。そのため、生鮮食品を中心にして粗利が確保できるようにしていると思われる。 仕入れを各店事で行うことで、値入ミックスが個店毎の来店客に併せてできているので、きめ細かい対応ができるのだろう。
「みかん1個20円で好きなもの、良さそうなものを選んで持っていってください」といったプラカードがある。果物売り場や野菜売り場では、不揃いのものや、泥つきものをあえて置いてある。形の揃っていないもので、仕入れ値を安く抑えているかもしれないし、陳列の手間も少なくて済む。
品揃えが多く、非常にバラエティーが飛んだ商品がたくさん置いてあるので、刺激的であり思わず買ってしまう。さらに、大きなPOPはインパクトが強く、買物点数が多いと予想される。スーパーで扱う最寄品は、買い上げ点数は非常に重要だ。そして、坪高率を意識してか、通常であれば陳列しないような足元に近いところまで陳列してある。ドンキホーテまでいかないが、最近はやりの小売りの教科書にでているような広い通路ではなく結構狭い。
出店場所は、世田谷本社や山の手周辺など、比較的高所得者が住む所へ出店し、更に、成城石井よりも安く価格設定することにより、来店頻度を高めている。世田谷本社や山の手周辺などのドミナント出店のため、物流コストも低いのだろう。また、居抜き物件に出店することで、出店コストを抑えている。居抜き物件であれば、最低限の改装費で済むし、減価償却費、大屋との家賃交渉を行って安く抑えているのだろう。また、本社スタッフが極端に少ない。
チェーンストアー理論を否定した個店主義により、チーフや各売場担当者が、自由裁量で商売人感覚で運営されているので、様々な上記のような工夫の中で、高い利益率を達成しているに違いない。
大手スーパーが、生産者と直接交渉し、強いバイイングパワーで安くたたいているのと異なり、東京の大田市場での仕入れを行いながら、これだけの利益を実現しているスーパーオオゼキは、チェーンストアの呪縛から脱した新しいマネジメントの可能性を教えてくれる。まさに、ネクストマネジメントとして研究に値する企業であり、オオゼキではなく、横綱だと感じる。
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