現在の不況の時代においても、必ず業績がいい企業が1割はある。その企業に共通した特徴は、経営理念がしっかりしていて、且つ、現場まで浸透している点だ。
経営理念の浸透と組織文化はセットのようなものだ。トップの理念が浸透した結果として、組織文化に現れる。組織心理学者のE・H・シャインは、経営理念の浸透度を、組織文化の3つのレベル段階に表現している。
①朝礼や社歌といった文物に象徴されたもの
②創業者の言葉や社訓などの価値観を託されたもの
③組織の成員がもはや疑問に思うことのない前提として信念や行動体系に体系化されているもの
①は、まだまだ表面的な段階である。
②は①よりは、一歩深まっているが、社員にも社外にも表向きに標榜しているといった面はあるが、十分に落とし込めているかはわからない。
③この段階になって、はじめてトップの理念を踏まえて、意識しないで本音での行動や価値判断の基盤となる。
③になったはじめて経営理念が機能しだす。①②は、まだまだ社長室の壁の額縁にはってあるレベルだが、③の段階レベルになると、トップの理念が浸透し、社員同士が意識しないで、価値判断や行動レベルまで落としこまれ組織文化を醸成していく。
経営理念が落し込まれる際に、必要なのが「物語・エピソード」である。
強い組織文化が醸成されている企業には、必ずと言っていいほど「物語・エピソード」が語り継がれている。以前、ホンダが排ガス規制マスキー法をクリアーした時のメンバーのお一人に、セミナーに参加いただいた際、いろいろな話をお伺いしたが、本当にうれしそうにイキイキとお話をしていただけた。
話の内容としては、故本田宗一郎に、直接怒られたり殴られたことや、ご自身が燃費リッター150キロのスーパーカブの開発に当たった時などのことについてであるが、話をしだしたら止まらなかった。
お邪魔している通信販売の会社の物語・エピソードとしては、お客様に満足いただくことを最優先にして、九州から岡山まで謝罪訪問をしたこと、身体に合わないと言われたお客様に対して、全額返済したこと等々・・たくさん出てきた。
こうした物語の伝承が必要なのである。ホンダの場合も、故本田宗一郎さんのリーダーとしてのエピソードは、多いと思うが、それぞれの現場のリーダーのエピソードも、前述のように数多く語り継がれているに違いない。
そこで、生意気だとは思ったが、利害関係の無い外部の強みで、はっきり管理者に言った!
「いつまでも、社長のリーダーシップに頼っていてはだめだ!管理者として経営理念に基づく率先垂範、語り継がれるようなことを実践し、更に、実践したことを下に伝えないと、理念は絶対に浸透しない!」
私が知っているある企業のトップは、「リーダーは一人でいい。後は、優秀なマネジャーが入ればいい」と言われるが、本当にそうだろうか?
仕事のテクニカルなことであれば、マネジャーがいればいいといったことも分からないではない。しかし、経営理念の浸透では、トップと同じベクトルで率先垂範するリーダーの存在が不可欠だ。
理念を踏まえた組織文化の醸成がなされているかどうかの判断は、物語がどの位語られているかが、一つの判断材料になる。
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