スープストックトーキョーは、三菱商事の社内ベンチャーとしてスタートしました。
創業者である遠山正道氏の著書、「スープで、いきます」の中で、「1998年スープのある一日」という企画書が掲載されています。ストーリー仕立てで、スープストックのコンセプトが説明されている斬新な企画書です。
その企画書は、その後、スープストックトーキョーを運営する株式会社スマイルズで「バイブル」と呼ばれるほど、現在のスープストックトーキョーの姿を見事に表しています。
その企画書は、既にスープストックが存在する(実際には企画も世に出ていない時期)店舗として、実際の登場人物がスープストックをどのように活用しているか、何に惹かれているのかというスタンスで書かれています。著書でも述べられているように「スープをめぐる具体的なシーンから、お店や会社の将来の有り方まで」を網羅した、秀逸な企画書になっています。
スープストックトーキョーの成功の鍵は、いくつもあります。しかし、その中でも私が注目をしたいのが、企業ドメインがこの企画書段階で、非常に明確だったことです。
エーベルはCustomer(標的顧客)、Function(顧客機能)、Technology(独自技術)の3要素からなるドメインを提唱しています。
標的顧客は、誰を自社の顧客にするか、顧客機能は、その顧客が求める商品、サービスの機能は何か、独自技術は、顧客機能を充足させるために自社が提供できる技術は何か、と捉えることができます。
スープストックトーキョーの企画書を見ると、標的顧客は、「女性」「ビジネスパーソン」「健康に留意する人」「食を楽しむ人」ということが読み取れます。顧客機能は、「女性が1人で入れる」「栄養バランスが良い」「季節感を感じることができる」「早い」などが読み取れます。独自技術として、遠山氏がこだわったのが、「無添加スープ」「季節ごとのメニューの入れ替え」「マニュアルや仕組みによるスループットの速さ」「センスの良い内装」などで、まさに独自技術をそのために用意したといえます。
このように、事業開始時に明確なドメインを設定できたことが、その後の立ち上げの苦難を乗り越え、成功に至る大きな鍵になっていると考えられます。
ドメインは、経営理念や経営方針と同じく、企業やプロジェクトのメンバーが共有し理解をする必要がある要素です。経営理念や経営方針は、言葉で表しやすく共有しやすいのですが、一般的にはドメインはほとんど共有されることはありません。
その理由として、まずドメインをしっかりと整理して説明できる状態にある企業が少ないこと、整理できたとしても抽象的な話になってしまい、具体的なイメージを各メンバーが独自に自分の考えに落とし込むため、齟齬が生じてしまうことなどが考えられます。
スープストックトーキョーの遠山氏の企画書は、上記の問題点を一挙に克服したといえます。携わったメンバー全員が、まだ見ぬスープストックのドメインを共有し、具体的な施策レベルまでイメージすることができたため、軸がブレずに成長に繋げることができたといえます。
企業経営者にとって大切なことは、自社のドメインをきちんと整理し、それを構成員に伝える術、技術、ツールを持っているかどうかです。1つの成功事例として、スープストックトーキョーを参考にしてみてはいかがでしょうか。
【参考資料】
遠山正道著『スープで、いきます』新潮社、2006年
流通コンサルタント 岩瀬敦智
最近のコメント